2008-08-14
老いた男に国なんぞ無い/「ノーカントリー」

昨日観た「ノーカントリー」の事でもう今日一日中
頭が一杯なのでした。これ、ぶっちゃけコーエン兄弟が
シャレにならんシャレを思いっきりぶつけたかのような映画で。
当事者意識欠落した人間が作れる映画ではないなーというのが
正直なところ。シャレにならん日常を日常としておれもあんたも
生きている、そしてそれは徹底的に残酷で慈悲もクソも何も
あったもんではない、思いあがった思いは棄てろ、そこには
何も無い!と言い切られてしまったかのような殺伐っぷり。
近年稀に見る残酷極まりない映画だと思いました。
メインとして何しろおかっぱで支離滅裂そのもののキリングマシーン、
シガーが怖過ぎる!むちゃくちゃだ!みたいな事ばっかり
クローズアップされますが、私は案外こいつの怖さには
度肝抜かれる事も無く(無音でパスッと大殺戮で十二分に怖いけど)。
トミー・リー・ジョーンズ先生の名人芸に舌を巻いたものでした。
劇中、ひたすら悩んで学んでどころか悩んで悩んで何も答えが出ない、
という虚しさを抱えているのが保安官のトミー・リー・ジョーンズ先生なので、
猫屋敷での叔父さんとの会話が白眉(迫力が…)とはいえ最初は
人間が持ってる「悪意」についての映画なのかと、その悪意について
悩むのが彼なのかと思っていましたが、それもまあ
アリなのかもしれませんけど、夢の話で希望を持たせてくれたり
そうでなかったり。真人間の「悪夢」についての映画なのかな?とか
勘違いしてみたりもしました。私は基本的にコーエン兄弟は性善説側の
方々なのかなーとか思うので、保安官のオッサンが全てを語るに堕ちる
「運命なんぞままならない、そして皆どうしようもない」という結論に
達するほどシニカルだとも思えませんでした。諦念だらけで厭世的に
なりもしたくなるけれど、それでも夢の話が唐突に出て来るのです。
確かに、おかっぱキリングマシーン、シガーの存在は最早天災としか
思えないくらいですし、狩猟のついでにやばい現ナマを抱えたがために
そんなシガーに追われるハメになってしまったベトナム帰りでヒゲ面の
オッサン、モスの善戦っぷりと強欲さ加減、何も知らないモスの嫁の
いたいけな強さ(でもそれもいとも簡単に…)もかなりの
見どころですが、やっぱり「運命と欲はどうしようもない」けれど
「そうでもないといいのに」という両方で揺れに揺れる
ジョーンズがいいなあ、と。でも、もんのすげー疲れるわ、重いわ、
淡々と「現実離れした現実そのもの」をひたすら突き付けられるうえに
あとはまた皆さん、悩んでね〜♪みたいな超突き放しのどん底に
叩き落されるわでそーとーなまでに集中力使う映画なので、なっかなか
「絶対観てね♪」などと脳天気にほざく事が出来ないのです…。
なのに。私はもの凄く好きだ、この映画。
人間の行動にはどれだけ理由が無いか、弱いか、破天荒か、そして
強いか、ってのを延々と考える事が出来る映画です。感じる映画。
でもやっぱりそれにも意味は無いのだよ、という無限ループが
たとえ待ち構えているとしても。コーエン兄弟の最高傑作だとは
思いませんが(まだまだ伸びしろがある作家兄弟だと思います)、
問題作ではあります。迷っているのだ、という事をこの映画は
呆れるくらい率直にすぽーんと投げっ放しにしているので…。
そしてそれは登場人物全てにいえる事でして…。唯一迷いが無い、
ほとんど神視点に見えるシガーですら、テメーで勝手に決めてる
変なルールに従ってて、それをモスの嫁にあっさり覆されて、
ルールを守るという事はそれが無ければ迷う以外無いのだという事の
証なわけでして。迷いが無いのはモスの嫁のオカンとシガーを追う
刺客のオッサン(ウディ・ハレルソン)くらいなもんかも。あとは
シガーとモスを助けるガキ。笑える登場人物ってったらもう
それっくらいで、あとの人物なりストーリーなりはシンプルとはいえ
迷って迷走しっぱなしです。「不確定要素のみが確定要素である」
という悲惨な事実だけがリアル鬼ごっこなストーリーを支えている、
そんだけです。
こんな映画がオスカーかぁ…。それで二言目には
「血と暴力に彩られてて正義に燃えるアメリカの病んだ部分が〜」とか
言われちゃうんでしょうけれど、そんなのは大義名分でしかなく、
「実際そんなもんなんだろうなあ」と皮膚感覚で怖がらせてくれる
恐ろしい、というかまた冒頭に戻りますが残酷な映画だなと。
解っているけれど、実は解りたくない、そういう事ってあるだろ?と
コーエン兄弟に懇々と御話されたようなくどい気分に弱い私は
左右されまくりでした。今も左右されまくってます。
夢も希望も愛も無い、運命なんてどうしようもない、ただただ
呆然とするのみだ、呆気に取られて死ぬだけだ、でもそれだけじゃ
色気が無い、と。ただ映画として形にしてしまうとこでコーエン兄弟、
迷いは無いですけどね…。乾いてて、無常で無法で、でもそれでも
映像は死ぬほど美しい…。何で劇場で観なかったのさ、私よ。
久しぶりにDVD買おうかと真剣に考えている私が居ますよ。
ある種のどうしようもないロマンに生きる強い部分もある映画だしな。
あ、そうそうこの映画観てて思ったのですが
唐突にニック警部にこの映画の感想を問うてみたいとも。
どっかしらやたらと警部くせえ映画ですよ。
御知り合いの方で全然違う映画ですが(こっちもオスカー取ってんだよな…)
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」をして警部くせえと思った
御方がいらして、それで唐突に思い出しました。モロかぶりとは
言えませんが絶妙に「警部くせえ映画」です。意外と今の警部だと
「何だあのオチはよ〜?!」とか言いそうだけど(苦笑)、
「マーダー・バラッズ」くらいまでのゴールデンエイジ枠警部で。
あとウィル・オールダムを大音量で聴きたい!!という欲求もアリ。
ちなみに「ノーカントリー」は劇中ほぼまともに音楽が流れません。
やっぱりコーエン兄弟は嫌いにはなれません。好きでよかった。
普通にいい映画です。






